日記

毎日の喜怒哀楽と将来、恋愛。面と向かって言えないこと。

小津によく似た少年。

大学一年の頃、友達の紹介で出会った男の人がいた。

友達と同じ大学の人で、でもたしか年齢は私よりひとつくらい上だった気がする。

友達に紹介される前から、彼とはなぜだったかSNSをフォローし合っていて、そこでの彼の発言が私はとても好きだった。

 

会う以前から少しの好意を持っていた彼との会話を、私はもうほとんど覚えていない。

その後彼はSNSをやめ、大学にもあまり行かなくなったようなので、私が彼と話したのはそのたった一度だけだった。

 

もうほとんど覚えていない彼との会話で、私が唯一ずっと忘れずに覚えていることがある。

 

「二十歳超えて香水つけてない女はダメ。」

彼はそう言った。

 

今だったらもしかすると、何とかハラスメントの類で問題になりそうな発言だが、大学に入りたてでお酒や化粧や男を覚えたばかりの当時の私にとっては、自分より少し大人な男性の言ったその言葉がすごく意味深く思えてしまった。

 

実際彼はとてもオシャレな人だったので、その発言の意図は別に女性への蔑みとかではなくて、ただ彼自身の女性の好みと、それから身なりに気を使うことが彼にとっての重要事項だったということから来た自然な言葉だったんだと思う。

 

その言葉に強い衝撃を受けた私だったが、二十歳を超えても香水をつけたことがなかった。

香水は高いし、どれがいいのかも分からないし、周りの人と好みが違ったら不快感を与えてしまうかもしれないから。

それに私は香水の香りよりも柔軟剤や日向の香りのような生活感のある香りのする男性が好きだったから。

高いブランドの香水よりも、好きな人の肌の匂いや服の方がずっと抱きしめていたくて、それが私を愛おしくも苦しくも死にたくもさせてくれたから。

だから私には香水なんか必要なかった。

 

 

22歳の私は、今日、初めて香水を買った。

前から好きだった化粧品ブランドの、1万5千円くらいする香水を。

私にはもう、香水が必要だった。

私はもう誰かの香りに泣いたり笑ったり人から嫌われたらどうしようなんて悩んだりしていられるほど、素直ではいられなくなったのかもしれない。

 

あの人のことで、そしてあの人のことで、それからいつかのあの人のことで、ダメになってしまう。いつもダメになってしまう。

だからもうダメになりたくないから、私は私の、香水を買った。

 

「二十歳超えて香水つけてない女はダメ。」

そう言った彼は今どうしてるんだろうか。

ちゃんと大学を卒業したんだろうか。

就職したり彼女がいたりするんだろうか。

そしてどんな香水をつけているんだろうか。

今日はずっと、そんなことを考えている。ずっと考えてしまう。