本に囲まれて育った。
両親は相当の読書家で、流行りのゲームは買ってくれなかったけど、本のためならいくらでもお金を出してくれた。
父は歴史小説、母は外国文学、兄は推理小説やファンタジー、私は純文学やエッセイが好きだ。
そのせいもあるのか小さい頃から国語が得意だった。
優秀な兄と違っていつも赤点ばかり取っていた私だけど、現代文だけは人より良い点を取ることができた。
母は児童文学の同人誌に参加していたし、兄は大学時代、演劇サークルで脚本を書いていた。
私も文章を書くのが好きだ。口では上手く言えないことも文字に起こすと伝えられるような気がする。
上手い文章を書く人なんて溢れるほどいて、その善し悪しなんて人の価値観の違いでしかない。
私の文章も結局は誰かの受け売りで、これまで読んだ本の真似事でしかないんだということはちゃんと理解している。
だけど、私は嬉しかった。
国語の先生が私の読解を「完璧」と言ってくれたこと。
教授が私の卒論を「言語化能力が高い」と評価してくれたこと。
友達のレポートを代筆したら友達が「文章力がある」と褒められていたこと。
見ず知らずの人が私の文章を読んで感動してくれたこと。
友人たちが詩の感想をくれること。
全部が嬉しかった。それだけでよかった。
私の悲しみが、孤独が、苦しさが、高揚感が、惚気が、誰かに伝われば、もうそれで良いんだと思う。
本を通して私が受けた感銘とか美しさや、感傷を、短いたった一行、たった一言で人生が変わるような言葉を、ただ綺麗なだけで無意味な言葉を、みんなが浴びればいいのに、と思う。